未確認で進行形 感想文

極めて真面目な感想文を書きます。
当然のごとくネタバレはあります。
だが例によって話がうまく構造化されていないようであっちこっち飛びます。
まーこれは何かの下書き的な意味合いもあるので許して欲しい。
NGワード:原作者/制作サイドはそんなこと考えてない。

神話としての「未確認で進行形」

半分本気で、未確認で進行形は結構ちゃんとした構造を持っていると言えない事も無いと思う。
大雑把に、夜ノ森小紅を主体として

  1. ただの人間だった小紅は幼少期に人ならざるものの里・三峰家へ行き、死ぬ
  2. 三峰の力によって蘇生するが、半神(もしくは半妖)半人の存在となる
  3. そのことを忘れる
  4. 人ならざるものが人里へ来訪することによってそのことを思い出す
  5. 人と人ならざるものの調停者となる

と整理すれば、割と神話っぽい。
明らかに小紅は助かったというよりは一度死んだのであり、現在も半分死んでいるといっていい。
とはいってもここでちゃんとした話をやろうとすると俺の付け焼き刃な知識の粗が露呈するからそういう話はしない。


じゃあなんでこういう話をしたかっていうと、こう大雑把に人と妖怪(めんどくさいから以下妖怪で統一)の対立軸を意識しておくといろいろと解釈しやすいから。
この対立軸が何を象徴しているかというと、これまた大雑把な物言いだけど、「旧い価値観」と「進歩的な価値観」の対立だ。


率直に言って、キャスト情報を見てすっ飛んで来てあらすじを見た時に、ちょっと小紅の設定に尻込みした部分はあった。
いくら許嫁をフックにするからって、ちょっと男性にとって都合の良い「よき妻」としての記号が山盛り過ぎないかと。
だがある程度お話を紐解いて行くと、多才な姉や母に対して自らが「お嫁さん」としての能力しか持ち合わせていないことに対するコンプレックスが明らかになってくる。
落としどころはさておき、それほど無邪気な手つきでこういうキャラクターを生み出したわけではないのだな、と私は思ったのだった。


要するに、夜ノ森家は女性がバリバリと働く現代的・進歩的価値観を体現しているが、ある意味その反動として小紅という存在が生み出されていると言っても良い。
ぶっちゃけ彼らが家事をしないから小紅は家事万能に「なってしまった」のであって、彼女らが小紅を「いいお嫁さん」にしたのである。
巨乳安産型は身体特徴であって先天的なはずだが、まぁそれもひょっとすると三峰の力の影響かもしれない。
紅緒が自らのやりたい事を優先したばかりに妹を嫁にとられる、という構造はその縮図だ。
いくらなんでも極端な戯画化ではあるが、進歩的な女性の裏で誰かがそのツケを背負わされているというのはある種現代的なテーマなのかも?
そもそも女性が進歩的に働ける障害の方がまだまだ大きいので大声で論じるにはまだ早いトピックではあると思うけど。


他方、三峰家はコテコテの旧家であり、小紅に「お嫁さん」を望んでいる存在である。
そもそも許嫁という存在を運んで来た存在であり*1、真白はドヤ顔で小姑として振る舞う。
小姑としての真白の発言はぶっちゃけひどいというか時代錯誤的だが、とりあえずは小紅はイビりようがないパーフェクト嫁なばかりに救われている。


つまるところこのふたつの価値観の綱引きの中に小紅はいるのである。
彼女は思い悩む。将来の夢もないし自分はこのまま三峰の嫁になってしまうのかと。
実際には彼女はそこそこ以上に勉強もできる(特に人に教えるのは上手そう)ということが示唆されているが、環境が悪くて自覚できていない。

象徴としての「許嫁」

ふと思い立って許嫁という言葉の意味を調べてみた。
Wikipediaにはこうある。

許婚(いいなずけ、いいなづけ)とは、現在の概念では幼少時に本人たちの意志にかかわらず双方の親または親代わりの者が合意で結婚の約束をすること。また、その約束を結んだ者同士をさす言葉。許嫁とも書かれる。
婚約者を許婚(いいなずけ)と呼ぶことがある。許婚という語には、結婚を(家など)当人以外のものが決定するニュアンスがある。そのせいで、個人の意思を尊重する人たちから、偏見を持たれて、嫌われることもある。しかしながらこの語自体には元来、女性蔑視の意図はない。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%B1%E5%A9%9A

ここに書いてあることが無条件に正しいとは思わない、というかソースレスで非常に怪しいと思う。
だが、さもありなん、と説得力のある話ではあると思う。この物語を解釈するにはそれで十分だろう。


親同士が勝手に決めた許嫁であることを小紅は拒絶する。この時点で彼女は人間の、生者の、進歩的な立場に属している。
だが、許嫁の裏に隠された過去の事件を知り、少しずつ態度を軟化させていく。
同時に、過去の事件を理由に結婚する事を白夜はきっぱりと拒絶する。
三峰の側にありながら潔癖なほどに小紅の意思を尊重する彼は、単に好青年というだけなく三峰の力を半分失っており、おそらく彼もまた中間的存在なのだろう。


小紅は白夜に惹かれて行くけれども、その関係性と許嫁であるということにはズレを感じ続けている。
しかし最終話、ついに彼女は自分から「私たち許嫁なんだろ」と口にする。
だが考えてみれば、「親同士が勝手に結婚を約束したもの」であるから「隠し事をするな」、というのは話が合わない。
彼女が口にした「許婚」という語は1話のそれではなく、単に「将来結婚する約束をした間柄」という意味に書き換えられたのだ。
旧弊を無視して、彼女自身がその関係を選びとった瞬間こそ、夜ノ森と三峰が、人間と妖怪が、生者と死者が一歩歩み寄った瞬間なのだ。
言うまでもなく、一度崖から落ちて「死んだ」彼女を、二度目には白夜が救い出していることもそれを象徴している。
崖の向こう側に落ちる事無く、自由に二つの世界を行き来できる存在に二人はなったのだ。

お話のフックとデコレーションと粗

と大雑把にはそういう話だと思うけど、実際の実装としてはふつーにライトな構成ですよね(文体を変える)。


それなりにまっとうな構造であるところの本論を序盤では綺麗に覆い隠す為にいろいろなフックを仕込んでいるのが面白いところ。
そもそも三峰は人間じゃない、という話が出てくるまでに原作でも単行本1巻以上、アニメでは5話を費やしているし。
さらりと伏線を仕込む手際はなかなか面白いし「三峰の力」を権力とミスリードさせるのもなるほどなーという感じだしね。
白夜の存在感の薄さや気付いたら居るという部分もデフォルメされた好青年属性かと思いきやそれなりに意味を持って回収されたりとか。
小紅だけが真白の力の影響を受けてないのもちゃんとつじつまが合ってるとか。


あと本当に最序盤のフックはやはりロリ小姑たる真白たん。
とはいえセクハラパワハラまがいの発言を世間知らずの子供に言わせてかつ言い負かされるからセーフ、というのは個人的には結構ギリギリのネタです。
学校ででっかい声で巨乳安産型とかいうのはさすがにやめてやれよ。
関係性が出来上がって行くにしたがって小姑ぶりは鳴りを潜めて妹というか娘というかそんなポジションに落ち着いて行ってただただかわいくなると愛で放題な感じがありました。


真白に限らないことだけど、全体的に妖怪の面々がなんだかんだと都会的なものに憧れていたり、紅緒が妖怪に寛容(?)だったり。
こういうところがこのお話を全体的に丸く優しくしているよね。
結局深いところでは別に対立していないから周りが結局は二人をサポートする方向に歩み寄って来てくれるというか。


そういうところでいまいちよくわかんないのは紅緒さん。
もちろん残念美人とかデフォルメされた父親とか与えられてる役割は分かるんだけど、あそこまで奇人にすることないだろって思うよね。
正直三峰の誰よりも異能を使ってて「あれ?もしかして…」みたいな変な読みを残し続けているのはなんなのだろう分からん。
異能の反対側はノーマルではなくて別の異能ということなのか…?
という冗談はさておいて、シスコンロリコン具合もちょっと常軌を逸してるしなんかかわいそうなキャラですよね…。


あとこのはと仁子のあたりはまた別の物語の萌芽が感じられて面白いですよね。
このはが友達に自分の正体を明かせるのか、みたいな話とか気になるよね。


というわけで、全体的な私の感想としては。
筋のいい話なのに細部が雑だったけど根が優しいから結構楽しめた、と言う感想ですね。
うわーつまんねえ総括だ。

声優さんの感想

照井春佳 as 小紅

小紅が主人公だということをさておいてもものすごくよかったと思います。
それなりに重量感のある声なのにほんのりと全体にビブラートが掛かったような声質が自信のなさに自然と繋がって行く感じがトンピシャ。
お芝居もぶっきらぼうと丁寧と優しさと、全てのニュアンスがとても緻密で密度の濃いパフォーマンスだったと思います。


いろいろ追いかけてる都合上声優さんのパーソナリティも込みで感情移入してしまうけど。
ぱるにゃすは人への寄り添い方が本当に優しくて情熱的で素敵ですね。
人というのは人間だけじゃなくてキャラクターも。本当に全てのキャラを愛していて、それが小紅の目線と自然と重なってものすっごくハマっていた。
もちろん小紅そのものへの愛も。言葉にしてしまうとちょっと重いけど(笑)、その重さが本当に心地よかった。

松井恵理子 as 紅緒

キャラとしては一番無軌道で理路が無い紅緒様、カッターはさぞ苦労されたと思います。
ぶっ飛んだキャラをぶっ飛ばしてやる基礎にはなんの問題もなくて上手だな、という印象ですが、目安がないと制作サイドが思った位置にハメていくのは案外難しい仕事なのかもしれませんね。
カッターわーるど等での「やり過ぎ注意が良く出る」というエピソードとラジオでの「あやねる別録り多かった」「紅緒様は一人芝居が多い」等々の発言を総合すると本当に大変だったと思います。


正直なところ機能的な振る舞いに対して褒めたり貶したりしたくない、という態度なのであまり多くを言えません。
ただまぁまともなこと言ってる時の紅緒の筋の良さというか小紅に対する優しさは素直によかったなと思います。
切り替えの切れ味の良さもよかった(ボケを抑えられなかった)。
ただまぁどちらかといえば他の作品でもっといろんなポテンシャルを見て行きたいなと思うカッターさんでした。

吉田有里 as 真白

ファンを公言してるからこその雑な言い方をすると、正直言って前半の尊大な真白はしょーじき「上手すぎる」と感じる部分がありました。
なんだろうな、型が出来すぎてる。期待してたゆーりちゃんらしさってどこなんだろう、って思いがちょっとだけあった。
でもある意味それすらも杞憂なほどに、中盤以降の真白は素晴らしかった。
というか、真白自身の尊大な態度自体が彼女の中の何かの「型」の表れなのであって、型が強く出ているのは完全に正しい。
それは「決して棒読みでは無いいわゆる棒読み芝居」みたいなもので、作中の型を模倣している型なのだから、あれ、混乱してきた、分かるだろ、そういうことだ。


子供らしさと周りへの気遣いと強がりと、それがないまぜになった感情を型無しに出して来てくれて毎話本当に楽しかった。
紅緒と絡む時はわちゃわちゃしててそこからすっと置きに行ったりするところで地味に運動量豊富なのも素敵。


あとやっぱりこのはとの絡みは面白いですね。
さっきぃ先輩のパワーもかなり強いけどそこはやはり爆弾力で対等にやり合っててわくわくしました。

羽多野渉 as 白夜

かっこよくないようなかっこいいような。
完全に貶してるような書きぶりになるなぁと迷いつつ見切り発車で書いちゃうけど、少ないサンプルで恐縮ですが羽多野さんの演じる「いい人」ってなんかうさんくさい匂いが若干するなと前々から思ってたんですよね。
そういううさんくささが上手く作用してたように思います。白夜は最初から良い奴だったけど、何かを隠してる含みがあって。


あとはまぁ、基本的に喋らずに画で芝居してたから、ねぇ?というところはある。
でも女子ばかりのわちゃわちゃした音響空間をキチンと締めてていい仕事してたとは思います。

そのほか

あとは雑多に。


あいみん as まゆら
話を転がす便利役を軽妙に演じたあいみん。
まゆらという子自体が割と好きなキャラ造形(飄々としてるけど実は鋭いしっかりもの)というのもあるし、同クールのあいみん七変化ぶりがすごかったというのもあるけど。
なんだかすごくいい印象がある割にどこがよかったと具体的に褒めづらい。
まぁ褒めるところが無いけど上手いのがある種の到達点と言えないこともない、ユーティリティ的側面では。


あやねる as 撫子。
なんだろうすっかり売れっ子の風格出しやがってこの小娘が、と若干思っていたところに新境地で結構やりずらそうにしてたのでわははこやつめと思わなかったと言えば嘘になる。
でもまぁ別録り多かったと聞いてそりゃやりずらいわなと思ったしよくよく聴くと紅緒と(間とか呼吸的な意味で)キャッチボール成立してる時とそうでない時があってなるほどなぁと思う。
まぁここがどっちとか言い出すとあとで恥を書くのでやらないよ。
何を考えてるのか読みづらい中にも夜ノ森姉妹への親愛の情は確かに感じられて好演だったと思います。


さっきぃ as このは。
藤田咲で進行形だ!!!!!!!!!
というかさっきぃはさっきぃというだけでかわいい。さきほこれーさっきぃ!
すみませんでした。なんといっても溢れ出る善良な小物臭がたまらないですよね。
方言丁寧語ガキ化、とコロコロ変わる芝居も楽しい。
真白とやり合うシーンではどの程度打ち合わせたりどちらがリードしたのか定かではないけど、出来上がったものだけだとかなり真正面から打ち合ってる印象になっていてそれは先輩を褒めるべきなんだろうなぁと思います。


角元明日香 as 仁子。
うざくなりすぎないけどすこしうざい仁子。
元気で明るくて何か持ってるけどバカ。過不足ない芝居だったと思います。
二期があればこのはとの芝居がもうちょっと突っ込んだ形になっていくのでそこで期待したいなーと思うポジション。
スペクラだったのか今知った。認識が甘い。


渡部優衣 as 茜。
まったく意図不明の配役だったが全然別件(というかiマスのライブ)で惚れてしまいなんだか絶賛気になっています。
若い子を母親に持って来ても全然問題ない(そりゃそうだ)的な前例としてはそれはそれで興味深いものにはなるのではないでしょうか。
よくわかんない。ひっかかりのある声質だけどめったに喋らないし大した役割もない母様にひっかかりを作る意味も無いしなぁ。
まーとりあえずゆいトンの引き出し見れたのが良かったという穏当な結論にしておこう。


駒形友梨 as 白雪。
同じ母親役でもロリBBAを要求されるし仕事はそこそこあるという点では茜とはだいぶ性質が異なる。
とはいえ同じ母親役として対になる部分は意識されてるなーと思わなくも無い。
なんだろう、リアリティの枠を規定するキャラクターだよね、一応。声質的になんか通じる部分がなくはないというか…言語化放棄。
そんな白雪さんめっちゃかわいかったですね。私が言いたい事はそれだけです。
ふざけたこと言ってるときの割とぶん殴りたい感と真白と白夜に対する母親感の妙な説得力が両立しててちょっと唸った。
いやまぁ普通に演じればこうなるのかもしれないけど。おかあさん!


駆け足ですが、まぁ何かの下書きなのでこんなもんで切り上げますかね。
ラジオとかトーク番組とかの感想はまたおいおい。
とかまぁ書きながら結局MVの感想とか書かずじまいでライブの感想とごっちゃになっちゃったしホントにやるのかは知らない。

*1:正確には夜ノ森家の「おじいちゃん」もそうだが、彼は「死者」なので既に三峰の側に属する、というロジックがすんなりハマってしまう。